宮崎家庭裁判所 平成2年(家)2334号 審判 1993年2月12日
申立人 中田清子
相手方 中田忠
主文
相手方は、申立人に対し、本審判確定の日から6か月以内に金608万円を支払え。
理由
第1申立ての趣旨
相手方は、申立人に対し、財産分与として、別紙物件目録記載の不動産の評価額から離婚時の負債の残高を差し引いた残りの半額を支払え。
第2当裁判所の判断
1 本件記録によれば、次の各事実が認められる。
(1) 申立人と相手方は、昭和42年12月8日婚姻した。婚姻当時、申立人は紡績工場の企業内教育の教員、相手方は、○○県警の警察官であり、申立人及び相手方には特段の資産はなかった。
(2) 申立人及び相手方夫婦には、昭和43年7月3日長男悠介、昭和46年5月1日長女佐紀が誕生した。
(3) 相手方は、昭和51年12月、○○県住宅供結公祉から別紙物件目録記載の土地、建物(以下「自宅」という)を購入し、相手方名義で登記(移転登記は昭和52年4月28日付)し、申立人、子供2人と共に居住していた。
(4) 相手方は、昭和52年に○○署に転勤し、単身で生活するようになったが、そのころから申立人と相手方は次第に不仲となっていった。昭和53年3月から、申立人と相手方は、同居するようになったが、その後も夫婦喧嘩が頻発し、相手方が申立人を殴るようなこともあった。相手方は、昭和53年7月に○○に、昭和56年3月△△にそれぞれ転勤になったが、申立人は、昭和56年3月までは相手方と同居していたものの、同年に長男が中学校に入学したのを機に子供と共に○○市の自宅に戻り、それ以降相手方は単身赴任生活をなすに至った。
(5) 他方、申立人は、昭和52年9月に自宅で○○○学習教室(以下「○○教室」という)を開設したが、同教室は成功し生徒も増え、昭和56年3月には自宅を増設し、広い教室を作り、○○教室に利用するようになった。
(6) 昭和56年4月に、相手方が△△に単身赴任した時から、申立人は、相手方と相談のうえ、申立人、子供の生活費は申立人の○○教室からの収入で賄うことに決め、昭和62年3月までこのような状態が続いた。なお、その間も、自動車の購入など大きな支出は相手方の負担で行っていた。
(7) 昭和62年4月に、長男は○○の大学に入学した。申立人は、○○教室をもうひとつ作りたいと思ったが、相手方が反対したことから争いとなった。その際、申立人が「子供達の費用は今後全部あなたの方で見てほしい。」と言ったことから、その後、長男の学資、仕送り、長女の学資(当時高校生)を相手方が負担するようになった。(なお、長女の生活費は平成2年3月までは申立人が負担していた)。
(8) その後、相手方がかねてから嫌悪し、申立人にも絶対にしないように言っていたゴルフを申立人がするようになったことなどから、益々夫婦間の溝は深まり、昭和63年12月15日申立人と相手方は協議離婚をするに至った(長女の親権者は相手方。長男は当時すでに成人)。
(9) 離婚時、相手方は、申立人に、相手方が○○に転勤になるまでは自宅に居住してもよいと言ったことから、離婚後も申立人は自宅に居住し○○教室を行っていたが、その後の平成2年3月に相手方が○○○署に転勤になったことから、申立人は、自宅を出て、同年1月に購入していた○○○○○○○(マンション)に転居し、更にその後、現住所地の賃貸アパートに転居した。
(10) 離婚時あるいはその後に、申立人と相手方の間で家財道具などは分配済みである。
(11) 自宅の購入価格は1200万円であり、購入資金は自己資金(結婚後相手方の給料から貯めたもの)300万円、住宅金融公庫からの借入金410万円、警察共済からの借入金290万円、銀行ローン200万円であった。昭和56年3月に、自宅を改築したが、改築資金は300万円で、これは警察共済からの借入金200万円、申立人と相手方の収入から預金していた100万円から充当した。自宅購入、改築関係の借金は、相手方が給料の中から支払っていた。離婚時点(昭和63年末時点)における残債務は合計488万8499円であった。
(12) 平成2年3月時点における自宅の土地、建物の鑑定評価額は、土地1556万6000円、建物1294万4000円の合計2851万円である。
(13) 現在、長男は○○○○大学生(昭和62年4月入学だが、留年し、平成5年3月卒業予定)、長女は○○女子大学生(平成2年4月入学、平成6年3月卒業予定)である。相手方は、昭和62年4月以降、長男の学資、生活費及び長女の学資(平成2年4月以降は生活費を含む)を支出しており、その内訳は、長男の年間授業料30万円、毎月の生活費送金額12万円(年額144万円)、長女の高校時代の授業料3年間合計108万円(3万円×12月×3年)、大学の入学費用130万円、年間授業料45万円、校納費年間20万円、毎月の生活費送金額12万円(年額144万円)である。両名の授業料、生活費は両名が大学を卒業するまで相手方が負担することになっており、更に、各人の卒業時には卒業準備金として各40万円ずつ支出する予定である。
(14) 申立人は、自宅から転居した平成2年までは、○○教室から月平均30万円程度の収入があった。その後の○○教室の収入は月20~30万円である。
(15) 相手方の離婚前後の収入(給料)は次のとおりである。
総収入 源泉徴収総額 社会保険料 手取額
昭和62年度 645万4184円 41万3500円 48万8859円 555万1825円
(月平均46万2652円)
昭和63年度 669万9224円 37万4000円 52万4058円 580万1166円
(月平均48万3430円)
平成元年度 721万0397円 40万5400円 57万0151円 623万4846円
(月平均51万9570円)
平成2年度 766万9869円 47万2200円 65万4060円 654万3609円
(月平均54万5301円)
平成3年度 801万6981円 54万5600円 68万8635円 678万2746円
(月平均56万5229円)
2 以上の事実に基づき、本件財産分与請求について検討する。
(1) 形成財産の清算的財産分与について
まず、申立人と相手方が婚姻中協力によって得た財産について離婚に際し公平に清算するという観点から本件財産分与請求について検討する。
前記事実によれば、自宅の土地、建物は、婚姻後、申立人、相手方双方の協力で取得されたものと認められ、取得の経緯、取得後の原資(頭金は、結婚後貯えた預金)、ローンの返済状況、家計負担の状況(結婚生活21年間のうち、申立人の専業主婦期間10年、共働き期間11年)、その他の諸点を総合すると、申立人の財産形成上の寄与度は5割と認定するのが相当である。
前記のとおり、自宅の土地、建物の鑑定評価額は2851万円、離婚時点(昭和63年末時点)での残債務は約489万円(1万円未満四捨五入)であるから、離婚時の自宅は実質的に2362万円の価値があったと認められる。
自宅は、相手方名義であり、離婚後も相手方が取得しているものであるから、相手方は、自宅清算の観点から、財産分与として、申立人の寄与分5割相当額1181万円を申立人に支払うべきことになる。
(2) 子供の生活費、教育関係の清算について
相手方は、相手方が過去に負担し、今後共負担を続ける子定の子供2人の大学就学等のための学資、生活費等の負担について、本件財産分与に際し考慮されるべきである旨主張し、申立人は、上記子供の学資、教育費は別途養育費の請求の申立をしてもらい、財産分与とは別に解決されるべきであり、仮に財産分与で考慮するとするならば、申立人が昭和56年から昭和62年までの間、子供2人の生活費、教育費を負担していた点を考慮されるべきである旨主張する。
そこで、この点について検討するに、婚姻中に夫婦の一方が負担した子供の生活費、教育費は過去の婚姻費用の一部であり、一方が負担した過去の婚姻費用の償還は夫婦財産関係の清算の一側面であるから、この点も民法768条3項の「一切の事情」に含まれることは明らかである(最高裁昭和53年11月14日判決参照)。
そして、離婚後も一方が負担した子供の生活費、教育費及び今後も負担していくことが予想される同費用の負担も民法768条3項の「一切の事情」に含められるかが問題となるところ、これらの点は、本来、子の養育費の分担(あるいは扶養)の問題であり、特に将来の分担の問題は、過去の夫婦財産の清算とは若干性格の異なる側面もあるが、広い意味では、夫婦関係における経済的分担問題であり、紛争解決の効率性などに照らすと、これらの点も同条項の「一切の事情」に含まれ、財産分与において、これらの諸事情も斟酌しうると解する。
そこで、前記の子の生活費、教育費等の費用負担について検討する。
ア相手方負担分について
まず、相手方が昭和62年以降負担し、今後も負担する予定の子供2人の生活費、教育費について検討する。
一件記録によれば、次のとおり認められる。
(ア) 長男関係の費用(卒業見込みまでを含む)
入学に要した費用 100万円
生活費送金分12万円×12×6 = 864万円 864万円
授業料30万円×6 = 180万円 180万円
就職準備金 40万円
合計 1184万円
(イ) 長女関係の費用(卒業見込みまでを含む)
高校の授業料3万円×12×3 = 108万円 108万円
大学入学に要した費用 130万円
生活費送金分12万円×12×4 = 576万円 576万円
授業料、校納金(45+20)万円×4 = 260万円 260万円
卒業準備金 40万円
合計 1114万円
(ウ) これらの合計は2298万円になる。
イ 申立人負担分について
前記のとおり、申立人は、昭和56年4月から昭和62年3月までは子供2人の生活費、教育費を、昭和62年4月から平成2年3月までは長女の生活費を支出している。
しかし、上記支出金額がいくらであったかは、本件記録上明らかでない。
そこで、まず子供についての生活費を厚生省告示「生活保護法による保護の基準」に基づき算出し、これを生活保護額と申立人の収入との対比によって修正して、推計することとする。
家庭裁判所調査官作成の調査報告書によれば、昭和56年4月から昭和62年3月までの子供2人の生活保護基準に基づく生活費は合計495万円0864円、同年4月から平成2年3月までの子供1人の生活費は合計138万0840円の合計633万1704円となる。
ところで、申立人のその間の収入実額は、客観的資料上明らかではないが、申立人は月30万円程度であった旨供述する(○○教室の生徒からの月額合計100万円からロイヤリティ40万円、人件費21万円、教室代3万円を引き、これから税金等を差し引いた額とみられる)ので、そのとおり認定する。
ここから、月収の15パーセントを職業費として差し引くと25万5000円となり、この金額と平成2年度の3人世帯の生活保護額14万0190円を対比すると、申立人世帯は約1.82倍となる。それ故、申立人は、生活保護世帯の1.82倍の生活費を子供の為にも支出していたと推認できる(申立人が自己の収入に応じて、子供の生活費を支出していたかどうかはひとつの問題であり、1.82倍という比率はやや高率なものであるが、この期間は、申立人が子供2人の教育費も負担していたこと、前記のとおり、子供のための生活費、教育費を相手方が支出している時期は、昭和62年4月以降(平成6年3月まで予定)なのに対し、申立人の支出時期は昭和56年4月以降平成2年3月までであり、総務庁統計局の「消費者物価指数」及び「家計調査」によれば、昭和56年と昭和62年とでは、消費者物価指数は1.1倍、全国勤労者世帯の実収入は約1.25倍、消費支出は約1.18倍になっており、厳密には負担価値に違いがあるが、後記のとおり、その観点から修正してはいないことなどに照らすと、ここでやや高率の計算をすることは必ずしも不合理なものではない)。
そこで、前記生活保護基準に基づく生活費額633万1704円を1.82倍すると、1152万3701円となる。
ウ 両者の負担額の差
以上によれば、相手方負担額は2298万円、申立人の負担額は1152万円(1万円未満四捨五入)となり、相手方の超過負担額が1146万円(2298万円-1152万円)となる。
そこで、同金額の2分の1の573万円を申立人は相手方に支払うべきことになる。
(3) その余について前記認定事実によれば、本件において、相互に扶養的財産分与を考慮する必要はない。
3 結論
以上によれば、相手方は申立人に対し、自宅清算の観点から金1181万円を支払うべきことになり、他方、申立人は相手方に対し、子供の生活費、教育費の支出清算の観点から573万円を支払うべきことになり、両者を併せると、相手方は、申立人に対し、財産分与の清算金として、金608万円を支払うべきことになる。
なお、上記金員の支払いについては、本審判確定後6か月の余裕を置くのが相当である。
よって、主文のとおり審判する。
(家事審判官 横田信之)
別紙 物件目録<省略>